「オール・マイ・ラヴィング 」(All My Loving )は、ビートルズ の楽曲である。1963年11月22日に発売された2作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ 』のA面3曲目に収録された。ポール・マッカートニー によって作曲された楽曲で、クレジットはレノン=マッカートニー 名義となっている。イギリスやアメリカではシングル・カットされていないものの、多数のラジオ番組で放送された。カナダや日本ではシングル盤[ 注釈 1] が発売されており、カナダ盤は同国のチャートで1位を獲得したのちに[ 4] 、アメリカに輸入されて1964年4月に発表されたBillboard Hot 100 で最高位45位を記録した。
背景・曲の構成
「オール・マイ・ラヴィング」の歌詞は、ロイ・オービソン とまわったツアーのバスの中で書かれたもので、メロディは会場到着後に舞台裏にあったピアノ を使用して書かれた。このことについてマッカートニーは、「歌詞を曲よりも先に書いたのは、この曲が初めてだった」と語っている。
歌詞は、「P.S.アイ・ラヴ・ユー 」と同様に手紙の体裁をとっている。マッカートニーは、もともと本作をカントリー&ウエスタン としており、ジョージ・ハリスン はグレッチ・カントリー・ジェントルマン を使い、ナッシュビル・サウンド 様式のギターソロを加えている。ジョン・レノン はリッケンバッカー・325 を使用し3連符を刻み(オルタネイトピッキング )、マッカートニーは、ヘフナー・500-1 を使い、ウォーキング・ベースを演奏している[ 9] 。
作家のスペンサー・リーは、本作はザ・デイヴ・ブルーベック・カルテット の「Kathy's Waltz 」からインスピレーションを得て書いた曲と推測している[ 10] 。
レコーディング
「オール・マイ・ラヴィング」のレコーディングは、1963年7月30日にEMIレコーディング・スタジオ のスタジオ2で行われた。11テイク録音したのち、3回にわたってオーバー・ダビングが施された。アルバムにはテイク11とオーバー・ダビングが施されたテイク14を組み合わせた音源が収録された。同年8月21日にモノラル・ミックスが作成され、10月29日にステレオ・ミックスが作成された。
1965年にドイツとオランダで発売された『ザ・ビートルズ/グレイテスト・ヒッツ 』と『ウィズ・ザ・ビートルズ 』には、歌いだし前のハイハット のカウントが収録されている。このバージョンは、イギリスで1980年に発売された『リヴァプールより愛を込めて ザ・ビートルズ・ボックス 』にも収録された[ 14] 。
リリースと演奏披露など
「オール・マイ・ラヴィング」は、イギリスでは1963年11月22日にパーロフォン から発売された2作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ 』のA面3曲目に収録され、アメリカでは1964年1月20日にキャピトル・レコード から発売されたアルバム『ミート・ザ・ビートルズ 』のA面6曲目に収録された。イギリスやアメリカではシングル・カットされていないが、イギリスでは1964年2月7日に発売された同名のEPにタイトル曲として収録され、アメリカでは1964年5月11日に発売されたEP『Four By The Beatles』に収録された。また、カナダや日本ではシングル盤が発売され、カナダ盤のB面には「ジス・ボーイ 」、日本盤のB面には「ラヴ・ミー・ドゥ 」が収録された。
この曲はアメリカ進出時に出演したテレビ番組『エド・サリヴァン・ショー 』(1964年2月9日放送回)で演奏された。1995年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー1 』には、当時の演奏が収録されている。また、BBCラジオ 用に1963年12月17日と18日、1964年2月28日に演奏が録音されており、1964年2月28日の演奏が1994年に発売された『ザ・ビートルズ・ライヴ!! アット・ザ・BBC 』に収録された。1977年に発売されたライブ・アルバム『ザ・ビートルズ・スーパー・ライヴ! 』には、1964年8月23日のハリウッド・ボウル 公演でのライブ音源が収録された。ライブ演奏時は、最後のヴァースでハリスンがメインのメロディを歌い、マッカートニーがディスカントを歌っている[ 23] [ 注釈 2] 。マッカートニーは、ビートルズ解散後のソロ・ライブでも本作を演奏している。
ビートルズ主演の映画作品では2度使用されており、1964年に公開の『ハード・デイズ・ナイト 』のナイトクラブの場面で使用されたのち、1967年に公開の『マジカル・ミステリー・ツアー 』でインストゥルメンタル・バージョンが使用された。
レノンが1980年12月8日、ダコタ・ハウス 前でマーク・チャップマン に銃撃され、23時過ぎに搬送先の病院で死亡した際、タンノイ 製のスピーカーから流れていたのはこの曲だったと伝えられている。
評価
「オール・マイ・ラヴィング」は、多くの批評家から肯定的な評価を得ており、音楽評論家のイアン・マクドナルド (英語版 ) は「60年代の初頭のブリットポップ の無垢さは、この曲の感銘的なシンプルさで見事に醸し出されている」と評しており、『オールミュージック 』のリッチー・アンターバーガー (英語版 ) は「1964年以前に発売されたビートルズのLPにしか収録されていない楽曲で最も優れている」「アメリカでシングル・カットしていれば大ヒットしていただろう」と評している[ 26] 。デジ・セルナは、本作におけるハリスンのチェット・アトキンス を思わせるギターソロと、レノンのオルタネイトピッキングを称賛している。
また、レノンも本作を絶賛しており、1980年の『プレイボーイ 』誌のインタビューで「これは残念なことにポールの曲だよ。(笑)/原稿にここで「笑」と入れといてくれよ。くやしいほどいい曲さ。(歌い出す)バックで思い入れたっぷりのギターを弾いているのがぼく」と語っている[ 27] 。
1964年、第9回アイヴァー・ノヴェロ賞 のアウトスタンディング・ソング賞にノミネート[ 29] 。2010年に『ローリング・ストーン 』誌が発表した「The Beatles' 100 Greatest Songs 」では第44位、2015年に『NME Japan』が発表した「NMEが選ぶ、ビートルズ究極の名曲ベスト50」では第35位[ 31] にランクインした。
クレジット
※出典
ビートルズ
スタッフ
チャート成績
カバー・バージョン
1967年初頭に、オランダ系オーストラリア人のジョニー・ヤング (英語版 ) によるカバー・バージョンが発表された。このカバー・バージョンは、オーストラリアのGo-Set チャートで最高位4位[ 45] 、ケント・ミュージック・レポート 誌で最高位9位[ 32] を記録。
1992年、スペイン出身のバンド、ロス・マノロスが、1992年バルセロナオリンピック の閉会式で本作を演奏[ 46] 。
2003年、エイミー・ワインハウス がBBC Three で本作を演奏[ 47] 。
日本では高木ブー [ 48] 、山崎まさよし [ 49] 、つんく♂ [ 50] らによってカバーされた。
脚注
注釈
^ カナダ盤のB面には「ジス・ボーイ 」、日本盤のB面には「ラヴ・ミー・ドゥ 」が収録された。
^ スタジオ音源では、マッカートニーのダブル・ボーカルとなっている。
出典
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外部リンク
UK盤・US盤共通
1963年 1964年 1965年 1966年 1967年 1968年 1969年 1970年 1978年 1982年 1995年 1996年 2023年
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US盤 (ヴィージェイ /スワン /トリー /キャピトル /アップル )
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その他 (オデオン /パーロフォン /アップル )
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