Netscape のオープンソース化を経て生まれ変わったウェブブラウザのMozilla Firefox は、オープンソースソフトウェアの代表的な成果物の1つである
オープンソース (英 : open source )は、専らオープンコラボレーション (英語版 ) を促進する目的で[ 1] 、コンピュータプログラム の著作権の一部を放棄し、ソースコード の自由な利用および頒布を万人に許可するソフトウェア開発 モデル[ 2] 。この開発モデルでは、コンピュータで実行できるが人間が容易に理解・変更できないオブジェクトコード だけでなく、ソースコードも含めて自由な再頒布を許可するライセンスのもとで公開する[ 3] 。
オープンソースを推進するために設立されたオープンソース・イニシアティブ は、ソフトウェアがオープンソースであるための要件を定めた「オープンソースの定義 」を策定した[ 4] 。
歴史
「オープンソース」という用語が作られる前年、1997年 当時、「自由ソフトウェア 」というものに対する経営者や投資家の印象は必ずしも良いものではなかった。1つには、英語では「フリー」という言葉に自由と無料という二つの意味があり、英語圏では「自由なソフトウェア」を意味する「フリーソフトウェア」という言葉が多くの場合に使われていた「無償のソフトウェア」という意味と紛らわしく、無償という考え方は営利目的主体のビジネスには馴染まなかったことがある。また1つには、自由ソフトウェア運動 を進める中心的な存在であるフリーソフトウェア財団 がフリー(自由)ではないソフトウェア(プロプライエタリソフトウェア )に対して攻撃的であったことがある。さらに1つには、フリーソフトウェア財団の「自由ソフトウェア」が掲げていた「コンピュータのプログラマとユーザは、何の制約も受けずにソフトウェア(のソースコード)を他人と共有できるべきなのである」[ 5] という主張が共産主義 的だとされた。そのような背景から、「自由ソフトウェア」は営利目的の企業としては関わりたくない対象であった[ 6] 。
1998年 2月3日 、パロアルト において、マイクロソフト のInternet Explorer との競争でシェアが低下したネットスケープコミュニケーションズ のブラウザNetscape Navigator の建て直しの戦略会議が開かれた[ 7] 。会議では製品の機能と品質の向上とシェア回復のために、技術者の参加を募集する方法、誰でも開発および供給に参加できる理念について議論していた。そこでソースコードの公開は有意義であるが、自由ソフトウェア運動の急進的な思想は非現実的であり、その極端な思想がビジネスの世界からは拒否されていると考えた人々は[ 8] 、「free software」に代わる用語と理念を検討した。そこで「オープンソース」という用語をクリスティン・ピーターソン (英語版 ) が提案した[ 9] [ 10] 。また、「オープンソース」では敢えて自由という点を強調はせず、むしろ「ソースコードを公開するとどういうメリットがあるか」を関心の中心とした。
「オープンソース」は自由ソフトウェア運動をしているラリー・オーガスティン (英語版 ) 、ジョン・ホール 、サム・オックマン、マイケル・ティーマン 、エリック・レイモンド などの会議の参加者に受け入れられた。翌週、エリック・レイモンドたちは用語の展開を働きはじめた[ 7] 。リーナス・トーバルズ は翌日、全ての重要な承認を実施した。フィル・ヒューズはLinux Journal への投稿を提案した。自由ソフトウェア運動の先駆者であるリチャード・ストールマン はこの用語を受け入れることを考えたが、後に考えを改めている。
1998年 4月7日 、ティム・オライリー が開催した多くの自由ソフトウェアとオープンソースのプロジェクトリーダーが参加するフリーウェアサミット(後にオープンソースサミットに名称を変更)で大きく躍進を遂げた[ 11] 。会議には、リーナス・トーバルズ、ラリー・ウォール 、ブライアン・ベエレンドルフ (英語版 ) 、エリック・オールマン 、グイド・ヴァンロッサム 、マイケル・ティーマン、エリック・レイモンド、ポール・ヴィクシー 、そしてネットスケープコミュニケーションズのジェイミー・ザウィンスキー (英語版 ) が参加した。その会議では名称について混乱を引き起こし、マイケル・ティーマンは新しく「sourceware」を主張し、エリック・レイモンドは「open source」を主張した。集まった開発者たちは投票を行い、同日午後に勝者である「open source」が記者会見で公表された。5日後の4月12日 、エリック・レイモンドは自由ソフトウェアコミュニティへ新しい用語の「open source」の受け入れの発表をした[ 12] 。その後すぐ、同月末にオープンソース・イニシアティブが設立された。
1999年 6月、アメリカでオープンソース・イニシアティブが「Open Source」の商標登録を求めたが、「Open Source」は一般的な用語であり特定団体が権利を持つ商標にはならないと判断されている[ 13] 。これについて、オープンソース・イニシアティブは「Open Source」が一般的な用語として周知されたことを歓迎する立場を取っている。
2002年 3月、日本ではオープンソースグループ・ジャパン が「オープンソース/Open Source」を商標登録(第4553488号)している[ 14] 。日本での用語の利用に際しては特に許諾や制限は求められないが、オープンソースの定義と同等の扱いで利用されることが望まれている。
オープンソースの定義
オープンソース・イニシアティブ(OSI)はオープンソース・ソフトウェア(英 : open-source software )の要件として、「オープンソースの定義」を掲げている[ 15] [ 16] 。オープンソースの定義は、ソフトウェアのソースコードへのアクセスが開かれている(ソースコードが公開されている)ことを示すのではなく、オープンソース・ソフトウェアの配布条件として完全に従うべき事項を示している。オープンソースの定義では、ソースコードを商用、非商用の目的を問わず利用、修正、頒布することを許し、それを利用する個人や団体の努力や利益を遮ることがないことが求められている。
オープンソース・イニシアティブは、「Open Source」という用語の利用は、オープンソースの定義に準拠したものにおいて使用されることを求めている。2007年にはSugarCRM が自社のことを「Commercial Open Source」と表現して、オープンソースの定義に準拠していないソフトウェアライセンス をソフトウェア に課していたことを非難した[ 17] [ 18] 。
オープンソース・ソフトウェア
オープンソース・ソフトウェア(英 : open-source software )とは、オープンソース・イニシアティブの掲げるオープンソースの定義に準拠したソフトウェアである[ 15] 。
オープンソース・イニシアティブはオープンソースライセンス というライセンスカテゴリを管理しており、そのオープンソースの定義に準拠したライセンス のみをオープンソースライセンスとして承認している。オープンソース・ソフトウェアはオープンソースライセンスが課せられたソフトウェアであると言い換えることが出来る。オープンソースライセンスはライセンスの氾濫 を防ぐために虚栄心による独自ライセンスや複製ライセンスを承認していないため、オープンソースの定義に準拠しているがオープンソースライセンスと承認されていないライセンス、およびそのライセンスが課せられたオープンソース・ソフトウェアは存在している。基準はオープンソースの定義であり、その定義に準拠したソフトウェアはオープンソース・ソフトウェアである。
オープンソース・ハードウェア
オープンソース・ハードウェアのひとつであるArduino Uno
オープンソースの概念はソフトウェアにとどまらず、集積回路 やプリント基板 、CAD データなどの設計情報を公開し共有するものはオープンソース・ハードウェアと呼ばれる。
その種類は多肢にわたり、ワンボードマイコン (Arduino )、CPU (OpenRISC 、OpenSPARC )、3Dプリンター (RepRap 、OpenSLS )、人型ロボット (iCub)[ 19] 、電気自動車 (Open Motors)[ 20] [ 21] などがある。
ライセンスはソフトウェア用のものやクリエイティブ・コモンズ・ライセンス も使用されるが、ハードウェア用としてはTAPR Open Hardware LicenseやCERN Open Hardware Licenceがある。
オープンソースライセンス
OSI 公認ライセンスのロゴ
オープンソースライセンスは、一定の条件の下でソフトウェアの使用、複製、改変、(複製物または二次的著作物の)再頒布を認めている。次の2つの条件はほぼ共通している。
無保証であること
オープンソースの性質上、ソフトウェアやその二次的著作物は元の著作者でも制御しきれない形で流通し、元の著作者がそこから直接に利益を得ることは難しい。したがって、ソフトウェアは「有用であるとは思うが無保証である」と謳っている。つまり、著作者は、そのソフトウェアについて、予期した動作をする/しないの保証をしない。また、その動作の結果何らかの損害をもたらしたとしても、それを保障しないと定めている。
著作権 表示を保持すること
オープンソースは一定の条件内で自由な利用を認めるものであって、著作権を放棄するものではない。むしろ、「一定の条件」を守らせるための法的根拠は原著作者の著作権に求められる。したがって、多くのライセンスは適切な形でソースコードや付属文書に含まれる著作権表示 を保持し、つまり二次的著作物を作った者が自分で0から作ったように偽らないことを定めている。
ソースコードを伴わないバイナリ形式だけでの配布を認めているライセンスでは、その際にも付属文書に著作権表示を記載するように定めているものもある。
次の条件は、採用しているライセンスと、そうでないライセンスがある。
同一ライセンスの適用
複製や改変物を頒布する際には、必ず元と同じライセンスでの利用を認めるように定めているものがある。GNU General Public License (GPL) が代表的である。例えば、GPLのソースコードを BSD ライセンスのソースコードと組み合わせて新しいソースコードを作った場合、GPL の規定によって、このソースコードを頒布する際には GPL での利用を認めなければならない(詳細はコピーレフト を参照)。このようなソースコードを利用して、ソースコードを独占する(プロプライエタリな)ソフトウェアを作成することは難しい。
原著作者の特別な権利
この種の条件は、現在ソースコードを独占的に所有している企業がそれをオープンソース化するに当たって考慮する余地のあるものである。例えばMozilla のためのライセンスとして作成されたMPL では、二次的著作物を頒布する際にはソースコードを公開しなくてはならないが、元々のMozillaの著作権を有していたネットスケープコミュニケーションズだけは特別であって、二次的著作物のソースコードを公開しなくてもよい権利をもっている。
用語と概念への批判
オープンソースの概念は一定の成功を収め、オープンソースのソフトウェア開発の手法と意義の浸透をもたらしたが、自由を強調しないという点は自由ソフトウェア運動の支持者からの攻撃の標的となることがある。
1999年 2月17日 、オープンソース・イニシアティブの創始者の1人ブルース・ペレンス はオープンソースが既に成功を収めたこと、そしてオープンソースが自由ソフトウェアから離れすぎていることを挙げて「今こそ自由ソフトウェアについて再び語るべきときだ」と述べた[ 22] 。
2007年 、フリーソフトウェア財団の代表リチャード・ストールマン はオープンソースの概念は自由ソフトウェアが主な目的としている利用者にとって重要な自由を守るに足りえないとして、オープンソースは自由ソフトウェアの的を外していると批判した[ 23] 。
またストールマンは2013年 に、フリーソフトウェア運動が問題視している利用者の自由に対する制限の不当性をオープンソースは問題視していないと述べ、自由ソフトウェアの理念を正しく伝えるため「OSS (Open Source Software)」ではなく、自由ソフトウェアとオープンソースを複合した用語の「FLOSS (Free/Libre and Open Source Software)」の利用を推奨した[ 24] 。
出典
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^ “Open source ” (英語). Encyclopedia Britannica. 2023年3月6日 閲覧。
^ “Open source certification: press releases ” (英語). Open Source Initiative (1999年6月16日). 2023年3月6日 閲覧。
^ Richard Stallman . “GNUシステムとフリーソフトウェア運動 ”. 2018年3月1日 閲覧。
^ 吉田智子「第3章 インターネット文化と商業主義のバトルの歴史」『ネット社会を変える! オープンソースの逆襲』(初版)出版文化社、2007年9月10日、135頁。
^ a b Tiemann, Michael (19 September 2006). “History of the OSI ”. Open Source Initiative . 2002年10月1日時点のオリジナル よりアーカイブ。23 August 2008 閲覧。
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^ Richard Stallman (2016年11月18日). “Why Open Source misses the point of Free Software ”. 2018年2月9日 閲覧。
^ Richard Stallman (2016年11月18日). “FLOSS and FOSS ”. 2018年2月9日 閲覧。
関連項目
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外部リンク