ZIPコードはアメリカ合衆国郵便公社(USPS)が使用する郵便番号制度である。ZIPという文字は Zone Improvement Plan の頭字語で[1]、正式には大文字で書くが、同時に高速でものが移動する動作やその音を表現する英単語 zip とかけて、差出人が住所に郵便番号を用いることで郵便がより能率的に、従ってより速やかに届けられることを示すために選ばれた。基本的な形式は、5つの数字からなっている。拡張 ZIP+4コードは、5桁のZIPコードにハイフンと追加の4桁の数字が加わるもので、基本のZIPコードを単独で用いるよりも詳細な場所を指定することができる。「ZIPコード」という言葉は、当初、郵便公社によりサービスマーク(商標の一種)として登録されていたが、現在では登録期限満了となっている[2]。
1960年代初頭までに更に多くの一般的な体制が必要となり、1963年7月1日、強制力を伴わないZIPコードが全国に告知された。郵便局の従業員であったロバート・ムーン(英語版)は、ZIPコードの父と見なされている。彼は郵便監察官(英語版)であった1944年に提案を行った。ムーンは ZIP コードの先頭 3 桁のみデザインを任され、それは各々が郵便集中局(英語版)(sectional center facility、SCF、sec center とも)に対応するよう作られた。つまり SCF はこうした3桁の数字で表現される中央郵便処理機関である。SCFはZIPコードの最初の数字3つのついた郵便局全てに郵便を分配している。郵便はZIPコードの最後の数字2つによって分配し、早朝に対応する郵便局に送られる。集中局では郵便は配達せず、一般には公開されず(庁舎には一般公開された郵便局が入っているが)、ほとんどの労働者は、夜間勤務で雇われている。郵便局で回収した郵便は、午後に地域のSCFに送られ、そこで郵便は夜間に分配される。広域都市の場合、最後の数字 2 つは、以前の郵便区域番号と符合していて、従ってこうなる。
1983年、アメリカ合衆国郵便公社は「プラスフォーコード」とか「アドオンコード」、「アドオン」と呼ぶことも珍しくない「ZIP+4」と呼ぶ拡張 ZIP コード制度を使用し始めた。郵便公社のサイトでは ZIPコード検索サービス が用意されており、光学文字認識(OCR)に最も適した住所形式がそれで分かるようになっている。
私書箱には一般的な(しかし不変ではない)決まりとしてそれぞれの私書箱に独自のZIP+4コードが付いている。アドオンコードは次のものの一つであることが珍しくない。私書箱番号の最後の数字4つの場合(例:PO Box 58001, Washington DC 20037-8001)、ゼロに私書箱番号の最後の数字3つの場合(例:PO Box 12344, Chicago IL 60612-0344)、あるいは私書箱番号の数字が4つ未満の場合は数字が4つになるように十分な個数のゼロを付ける(例:PO Box 52, Garrett Park MD 20896-0052)。しかし定型の決まりがないので、ZIP+4コードは私書箱ごとに調べなければならない。
郵便局長宛ての郵便物(消印を押すものと通常される)にはアドオンコード9998を、郵便局留めには9999を、料金受取人払い (en:Freepost) には別の大きい数字を使用するのが一般的である。(下記で述べる)独自の ZIP コードの場合、アドオンコードは通常 0001 である。
料金受取人払の郵便物の場合、主に FIM コードが表裏判定に使われる。なぜなら、一般に切手や郵便料金別納証は(表裏の自動判定用によく使われる)蛍光インクを含んでいないからだ。さらに、FIM コードが A もしくは C の場合、それは POSTNET バーコードがあることを意味するので、郵便物は区分機 (Multiline Optical Character Reader) を飛び越えてバーコード読取機へ直行できる。このため、切手・郵便料金別納証つきの差出人払・料金先払の郵便物であっても、それらは POSTNET バーコードがあることを示すため、通常 FIM コード(具体的には FIM A)が付けられている。FIM D バーコードはオンラインで支払が行われたことを示すために使われる。
番号は東海岸を南へ下るほど大きくなっていく。すなわち、02115(ボストン)、20008(ワシントンD.C.)、30303(アトランタ)、33130(マイアミ)という具合である。(これは単なる例である。なぜならそれらの都市は別の ZIP コードも持つからである。)以降の番号は、ミシシッピ川の東側を西上・北上し、川の西岸を南下し、太平洋岸を北上するにつれ大きくなっていく。例えば 40202(ルイビル)、50309(デモイン)、60601(シカゴ)、77063(ヒューストン)、80202(デンバー)、94111(サンフランシスコ)、98101(シアトル)、そして最大の番号 99950(ケチカン)という具合である。
ZIP コードの 1 桁目は次のように割り当てられている。
0 = Connecticut (CT), Massachusetts (MA), Maine (ME), New Hampshire (NH), New Jersey (NJ), Puerto Rico (PR), Rhode Island (RI), Vermont (VT), Virgin Islands (VI), Army Post Office Europe (AE), Fleet Post Office Europe (AE)
1 = Delaware (DE), New York (NY), Pennsylvania (PA)
2 = District of Columbia (DC), Maryland (MD), North Carolina (NC), South Carolina (SC), Virginia (VA), West Virginia (WV)
3 = Alabama (AL), Florida (FL), Georgia (GA), Mississippi (MS), Tennessee (TN), Army Post Office Americas (AA), Fleet Post Office Americas (AA)
9 = Alaska (AK), American Samoa (AS), California (CA), Guam (GU), Hawaii (HI), Marshall Islands (MH), Federated States of Micronesia (FM), Northern Mariana Islands (MP), Oregon (OR), Palau (PW), Washington (WA), Army Post Office Pacific (AP), Fleet Post Office Pacific (AP)
1つの宛先住所に ZIP コードと都市名が書かれているからといって、その住所がその都市内にあるとは限らない。郵便公社は各 ZIP コードに標準地名 (default place name) を「1つだけ」割り当てる。これはその区域に実際ある行政区分としての町や市だったり、大都市や行政区分でない国勢調査指定地域の一部分だったりする。それらのいずれであれ、ZIP コードには「有効」と見なしうる追加の地名が割り当てられることがある。他の地名は「無効」と見なされ、それらを使った場合は配送が遅れることもある。
標準地名は一般に、そこの区域内にある実際の市や町である。しかし ZIP コードが導入されてから行政区分となった都市の多くは、実際の都市名は単に有効地名として扱われるだけであり、その ZIP コードの標準地名ではない。多くのデータベースは ZIP コードに標準地名を自動的に割りつけ、有効地名は(ひとまず)無視される。例えばコロラド州センテニアルの ZIP コードは、オーロラ、エングルウッド(英語版)、リトルトンが標準地名となる 7 種類の ZIP コードの集まりである。従って合衆国郵便公社から見ると、センテニアルなる都市は存在しない - それはオーロラ、エングルウッド、リトルトンそれぞれの一部なのである。ZIP コード体系において、センテニアルの住所はその 3 都市の下に位置づけられる。従って、それら 7 種いずれかの ZIP コードと共にセンテニアルを指定することは「有効」であるので、共有された ZIP コードのうちのどれかを使う限り、オーロラ、エングルウッド、リトルトンに実際にある住所に「センテニアル」と書くことは可能である。
センテニアルの例のように ZIP コードの境界が複数の都市にわたる場合、通常 ZIP コードに有効地名が付け加えられる。しかし多くの場合、その ZIP コード内の住所の多くが別の都市にあったとしても、標準地名だけが使われる。例えばアリゾナ州スコッツデールに割り当てられた ZIP コード 85254 が受け持つ地域の約 85% は、実際のところ隣のフェニックス市内にある。これは、その地域を受け持つ郵便局がスコッツデールにあるからである。このことは、その ZIP コード地域の住人にとって、たとえ実際はフェニックスに住んでいたとしても、あたかもスコッツデールに住んでいるかのような感覚を与えることもある。スコッツデールの Web サイトは同市の長所と短所を挙げているが、85254 という ZIP コードは長所とされている。なぜなら「スコッツデール」という名前が市外にある事業でも使われることになるからだ。
この結果、実際に住んでいる都市とは別の名前を住所として使わなければならない人達がいる。例えば、ハリス郡とフォートベンド郡の一部でありヒューストン郊外にあたるテキサス州ミズーリシティ(英語版)がそうである。そのハリス郡にあたる地域は ZIP コード 77071 の地域であり、そこではミズーリシティでなくヒューストンを都市名にしなければならない。ヒューストン市域のごく一部は ZIP コード 77489 のフォートベンド郡にあり、そこの住人はたとえヒューストン市内といえどもミズーリシティを都市名に使わなければならない。あるヒューストンの元市長と市会議員は、住所がミズーリシティだという理由から、フォートベンド郡居住者でありヒューストン市民ではないと告発された[要出典]。
この現象は合衆国のあちこちで見られる。前述のエングルウッドは1960年代までに形成された郊外地域である。その郵便局は、現在急速に発展したデンバー・メトロポリタン地域 (en) 南部を受け持っていたため、その地域の ZIP コードには標準地名としてエングルウッドが割り当てられている。デンバーの商業地域に劣らない大きな経済活動がここで行われるようになり、そのオフィス地域には、世界的に知られた多くの会社の本社が置かれるようになった。それらの会社は住所として「エングルウッド」を使っているが、それは ZIP コードの標準地名として使っているのであり、実際は別の都市に会社は存在する。その結果、まさに 2 種類のエングルウッドが存在することになる。すなわち、多数の労働者階級が居住する小さな地域としての実際の市、そして何マイルも離れ、高所得者層の住まいとオフィス街がある広い郊外地域としての「エングルウッド」である。後者はエングルウッドの市とは無関係なのだが、単に ZIP コードが同じという理由でその名を分け合っている。エングルウッドに居住/勤務し、そこへの強い帰属意識を口にする人であっても、文字通りの市には行ったことが無いかもしれない。インディアナ州では、町とそれに割り当てられた ZIP コードは通常一致する。なぜなら、ほぼ全てのインディアナ州の小さな町の郵便局はその地域で配達ルートを受け持っているからだ。
多くの ZIP コードは村、国勢調査指定地域、都市の一部、その他の自治体以外のものに付けられている。例えば ZIP コード 03750 はニューハンプシャー州エトナ(英語版)のものだが、エトナは都市でも町でもない。実際は ZIP コード 03755 を割り当てられた町であるハノーバーの一区域である。別の例として、ZIP コード 08043 はニュージャージー州カークウッド(英語版)の国勢調査指定地域にあたるが、実際はボールヒーズ(英語版)全体に相当する。これはニューヨーク州ラグレーンジ(英語版)にもあてはまることで、その地域の一部は隣のポキプシーが元となっている ZIP コード 12603 が割り当てられている。ラグレーンジの他の地域はラグレーンジビル (LaGrangeville) の郵便局が受け持っている。ラグレーンジビル自体は町ではないのだが、ラグレーンジの一区域とされている。ZIP コード 19090 が割り当てられているペンシルベニア州ウィロー・グローブ(英語版)はアッパー・モアランド(英語版)とアビントン(英語版)の境にまたがる村であり、その郵便局はアッパー・ダブリン(英語版)のごく一部をも受け持っている。インディアナ州アームストロング(英語版)は自治体としての町ではないのだが、バンダーバーグ郡の他の地区の ZIP コードが 477 で始まるのとは異なり、ZIP コード 47617 を使い、住所も "Armstrong, Indiana" となっている。さらに、自治体でない地名が、自治体である地名と ZIP コードを共有することもある。例えばニュージャージー州ウェスト・ウィンザー(英語版)は殆んどの郵便データベースで Princeton Junction (en) として通常表示されるが、Princeton Junction は町などでは全くない。実際はウェスト・ウィンザーにある国勢調査指定地域なのである。
ZIP コード用に指定された地名はそこでの「事実上の」(de facto) 地名になるため、そこ以外の都市や町が本当の住所だということを住人や事業者に納得させることは難しい。このことがもたらす同一性の欠如や混乱を避けるため、カリフォルニア州シグナル・ヒル(英語版)など幾つかの都市では、ZIP コードの標準地名になれるよう、郵便公社に請願して ZIP コードの境界を変更したり、ZIP コードを新規に設定したりしている。
この混乱は地方自治体にとって財政的な影響をもたらすこともある。なぜなら郵便物の流通量は、国勢調査局が10年おきの統計調査で人口動態を推定するために使う指標の1つだからだ。ZIP コードの標準地名ではないが有効地名になっている地域の地方公務員のなかには、自分たちの地名を使うよう住人に勧める者もいる。なぜなら統計で人口を低く見積もられたら、人口に応じて交付される州および連邦の基金が減らされてしまうからである。最も典型的な例は、標準地名がセーラム(英語版)になるウィスコンシン州パドック・レイク(英語版)である。パドック・レイクはセーラム内の自治体となる村だが、セーラムの非自治体地域以上の人口を抱えている。また、同じくセーラムの一部であるシルバー・レイク(英語版)も規模や立場がパドック・レイクと同様であり、また自身の ZIP コードと郵便局を持っているため、さらにややこしいことになっている。
別の例として、ラジオ放送局(現在の WNNX 放送局 (en))が放送地域免許 (city of license) をサンディスプリングス (ジョージア州)へ変更することを、連邦通信委員会 (FCC) が認めなかったというものがある。これはサンディ・スプリングズが州で 7 番目の人口を抱えるとはいえ「city ではない」というのが主な理由だった。(サンディ・スプリングズは2005年に自治体登録された。)連邦通信委員会は、当地の地元企業が宛名に「アトランタ」を使っている点を指摘したが、サンディ・スプリングズが自治体となった後もまだ、郵便公社は ZIP コード 30328 の地名にアトランタを使うよう促している。現在でもアトランタは無論、サンディ・スプリングズ市外のどこも 30328 を使っていないにもかかわらず、「サンディ・スプリングズ」は有効地名に過ぎない。この ZIP コードは、まさにサンディ・スプリングズの中央郵便局の私書箱にのみ使われているのである。
ZIP コードに関連付けられた地名は、郡の境界を考慮していないため、住所名が郡内の道路を基準に付けられている場合、問題が起こる。例えば 30339 を持つバイニングス(英語版)はジョージア州コブ郡の南東にあるため、全ての住所にそれを示す "SE" が付けられ、(郡庁所在地の広場からの距離に従い)郡内の座標に応じて番地が付けられている。しかし郵便公社は地名にアトランタを使うよう定めているため、バイニングスは実際にはアトランタ都市圏の北西にあるにもかかわらず、その住所はあたかも反対の南東にあるかのように見える。
FedEx、UPS、DHL など、郵便公社以外の配達サービスも、内部での集配を最適化するために ZIP コードを必要としている。これによって利用者は、目的地の空港の空港コードや終端駅など、集配経由地を指定せずに済む。
統計調査
ZIP コードは郵便物の配送に使われるだけでなく、合衆国の地理的統計情報の集計でも使われる。国勢調査局は一部の ZIP コードの中心点の緯度と経度を含んだデータ (ZIP Code Tabulation Area, ZCTAs) を管理している。国勢調査局は全ての ZIP コードについて最新の状態に対応しているわけではない。全データセットは有料で入手できる。
マーケティング
ZIP コードは「ZIP コードマーケティング」と呼ばれる、ダイレクトメールを使ったキャンペーン活動でしばしば使われる。POS システムの販売員は、顧客に ZIP コードを尋ねることがある。購買パターン情報は新規事業の土地選定において有用なものであるが、加えて、小売業者はこの ZIP コードとクレジットカードの氏名を関連付け、ディレクトリ情報から顧客の住所と電話番号を知ることができる。ZIP コードを使ったデータは、リスク管理の地理的条件を分析するためにも使われる。すなわち保険会社と銀行が行う、いわゆるレッドライニングのことである。これは、実際は比較的治安の良い町に住んでいながら、治安の悪い地域が近くにあり、そこと同じ ZIP コードを使っている人々にとって(例えば保険料が高くなるなど)問題となる。
選挙区
ZIP コードは選挙区の識別にも使われる。例えば合衆国下院の ウェブサイト には代議士検索機能があり、ページの左上隅に ZIP コードの入力欄がある。
インターネット
ZIP コードは多くのウェブサイト、特にブリック・アンド・クリックのサイトで見られる卸/店舗検索ソフトウェアには不可欠である。そうしたソフトウェアは利用者が入力した ZIP コードを元にして、通常はその ZIP コードの中心地点から近い順に、店舗や事業所の住所一覧を表示する。ZIP コードは合衆国の郵便網に限定されているため、ZIP コードが必須のウェブサイトは国外の顧客を登録できない[9]。
^“FCIC – About Us”. Federal Citizen Information Center of the U.S. General Services Administration. 2009年7月10日閲覧。 “For years, consumers have written to Pueblo, Colorado 81009 for timely, practical information they trust.”