パンジャーブ語 (パンジャーブご、Panjabi or Punjabi、グルムキー文字 : ਪੰਜਾਬੀ , シャームキー文字 پنجابی )は、インド とパキスタン にまたがるパンジャーブ 地方の言語 である。パンジャービー語 とも称される。
インド語派 に属し、語順 はSOV型 である。南アジアの言語のうち、ヒンディー語 ・ベンガル語 に次ぐ話者数を擁する。
分布
パンジャーブ語の話者の多くはパキスタン東部のパンジャーブ州 に住んでおり、パキスタンで最も多い人口の39%(2017年 )の母語であるにもかかわらず、パキスタンでは公用語にはされていない。パンジャーブ州都であるラホール でも、人口の大部分がパンジャーブ語話者であるにもかかわらず、書き言葉としては文芸雑誌 か私信にしかパンジャーブ語は使われず、ウルドゥー語 や英語 に比べて、その地位は高くない[ 5] 。
インドでは、インドのパンジャーブ州 の公用語 およびデリー の第二公用語になっているほか、インド連邦レベルでも憲法 の第8付則に定められた22の指定言語 のひとつである。近隣のハリヤーナー州 、ヒマーチャル・プラデーシュ州 にも話者がいる。
パンジャーブ語は在外インド人 の主要な言語のひとつでもある。カナダ では43万人がパンジャーブ語を母語とし(2011年)[ 6] 、イギリス では27万人がパンジャーブ語話者である(2011年)[ 7] 。ほかにオーストラリア ・アメリカ合衆国 のカリフォルニア州 などにも分布する。
パンジャーブ語はシク教 の重要な言語であり、聖典である『グル・グラント・サーヒブ 』は主にこの言語で書かれている。
音声
母音はヒンディー語 と同じく、短母音 a i u /ə ɪ ʊ/ と、長母音 ā ī ū e ai o au /ɑ i u e ɛ o ɔ/ がある。各長母音には対応する鼻母音 がある。
子音は以下のとおり。f z x ɣ は外来語にのみ現れ、それぞれ ph j kh g と区別されないことも多い[ 8] 。
パンジャーブ語の大きな特徴として、いわゆる有声帯気音の系列(gh jh ḍh ṛh dh bh )が消滅して語頭で無声無気音・語頭以外で有声無気音に変化し、その代償として声調 が発達していることがあげられる[ 9] 。h も語頭以外では、少数の例外を除いて消滅し、やはり声調に痕跡を残している。一般に、語頭に有声帯気音があった場合は低い声調になり、それ以外の箇所では先行する音節が高い声調になる。
声調
意味
パンジャーブ語
ヒンディー語
無標
むち
koṛā
koṛā
高
ハンセン病患者
kóṛā
koṛhī
低
馬
kòṛā
ghoṛā
ヒンディー語では古い重子音 が借用語以外では消滅し、その代償として母音が長母音に変化しているが、パンジャーブ語では重子音がそのまま残っている(例:buḍḍā 「老いた」、ヒンディー語 būṛhā 、サンスクリット vr̥ddha )[ 10] 。
パンジャーブ語ではそり舌音 の ṇ ṛ ḷ が音素として確立している。ヒンディー語では ṇ はサンスクリット からの借用語にのみ現れ、ṛ は英語 からの借用語を除いて ḍ と相補分布 をなす。ただし、パンジャーブ語でも東部方言では ṇ/n, ḷ/l の区別をしない[ 8] 。
方言
パンジャーブ語の「方言」
グリアソン は、インド言語調査において、西で話されているパンジャーブ語を「ラフンダー語 」というパンジャーブ語とは異なる言語であると主張した。どこまでをひとつの言語とするかについては議論が分かれる。
パティヤーラー にあるパンジャービ大学 (英語版 ) (英 : Punjabi University Patiala )では以下のように分類している[ 11] 。
バッティアーニー方言
ラティー方言
マルワイー方言
ポワディー方言
パハーリー方言
ドアビー方言
カングリー方言
チャンビアリー方言
ドグリー方言
ワジェーラワディー方言
バール・ディ・ボディー方言
ジャンゴチー方言
ジャトキー方言
チェナブリー方言
ムルターニー方言
バワルプリー方言
タロチリー方言
タリー方言
ベロチー方言
カチー方言
アワンカリー方言
ダーニー方言
ゲビー方言
ヒンドキー方言
スワエン方言
チャッチー方言
ポトハリー方言
プンチー方言
この中では、ドーグリー語 のようにインド政府によって1個の独立した言語として認められているものも含まれる。
エスノローグ の18版では、次のように分類している[ 12] 。
これは一見グリアソンの分類にしたがっているようだが、エスノローグのいう西パンジャーブ語とはパキスタンのパンジャーブ語のことにすぎず、実際にはインドの東パンジャーブ語とのちがいはきわめて小さい(サライキ語との違いはずっと大きい)。
表記
パキスタンではシャームキー文字 (シャー・ムキー体)というナスタアリーク体 を変えたアラビア文字 を用いる。
インドではシャーラダー文字 の系統のグルムキー文字 を用いる。パンジャーブ州以外の住民はデーヴァナーガリー文字 を用いることもある。
脚注
参考文献
Jain, Dhanesh (2007) [2003]. “Sociolinguistics of the Indo-Aryan Languages”. In George Cardona; Dhanesh Jain. Indo-Aryan Languages . Routledge. ISBN 020394531X
Shackle, Christopher (2007) [2003]. “Panjabi”. In George Cardona; Dhanesh Jain. Indo-Aryan Languages . Routledge. ISBN 020394531X
関連文献
Bhatia, T. "Punjabi: A Cognitive-Descriptive Grammar", 1993. p 279. ISBN 0-415-00320-2
The Times of India - "Punjabi, Urdu made official languages in Delhi" 25 June 2003
Canadian Census Data (2001)
Advanced Centre for Technical Development of Punjabi Language, Literature and Culture
Masica, CP, "The Indo-Aryan Languages", ISBN 0-521-29944-6 , p 20
関連項目
外部リンク