異なるリスクプロファイルにおける指数型効用関数
指数型効用関数 (しすうがたこうようかんすう、英 : Exponential utility)は、指数関数 を用いた形式の効用関数 のこと。期待効用 を最大化するようなリスク (不確実性)が存在する状況でよく用いられる。典型的には、次のように表される。
u
(
c
)
=
{
(
1
−
e
−
a
c
)
/
a
a
≠
0
c
a
=
0
{\displaystyle u(c)={\begin{cases}(1-e^{-ac})/a&a\neq 0\\c&a=0\\\end{cases}}}
ここで
c
{\displaystyle c}
は消費など意思決定者が多いほど望ましい変数であり、
a
{\displaystyle a}
はリスク選好の度合いを示す定数である(
a
>
0
{\displaystyle a>0}
はリスク回避 的、
a
=
0
{\displaystyle a=0}
はリスク中立的、
a
<
0
{\displaystyle a<0}
はリスク愛好的)。リスク回避的な選好を想定する場合、式はしばしば
u
(
c
)
=
1
−
e
−
a
c
{\displaystyle u(c)=1-e^{-ac}}
と簡略化される。
上式に含まれる定数項 1 は数学的には無関係であり、(非負の c の範囲で関数の値域を 0 と 1 の間に保つ理由から)含まれることがあるに過ぎない。この無関係性の理由は、効用の期待値
u
(
c
)
=
(
1
−
e
−
a
c
)
/
a
{\displaystyle u(c)=(1-e^{-ac})/a}
を最大化することが、
u
(
c
)
=
−
e
−
a
c
/
a
{\displaystyle u(c)=-e^{-ac}/a}
の期待値を最大化することと同じ選択を導くためである。効用関数そのものではなく効用の期待値が序数的効用 として解釈されるため、その範囲や符号は重要ではない。
指数型効用関数は双曲絶対的危険回避 (英語版 ) 効用関数の特殊な場合である。
リスク回避の特性
指数型効用関数は一定絶対的リスク回避 (CARA)を意味し、絶対的リスク回避の係数は定数となる。
−
u
″
(
c
)
u
′
(
c
)
=
a
.
{\displaystyle {\frac {-u''(c)}{u'(c)}}=a.}
例えば、1つのリスク資産と1つの無リスク資産を考える標準モデルにおいて、最適なリスク資産保有量は初期富の水準に依存しない。このため、追加の富はすべて無リスク資産に配分される。この特徴が指数型効用関数を非現実的と見なす理由である。[ 1] [ 2]
数学的な扱いやすさ
等弾力的効用関数 (相対的リスク回避一定 :CRRA)がより現実的とされるが、指数型効用関数は多くの計算において特に便利である。
消費の例
例えば、消費 c が労働供給 x と確率項
ϵ
{\displaystyle \epsilon }
の関数で表されるとする:c = c (x ) +
ϵ
{\displaystyle \epsilon }
。このとき指数型効用の下で期待効用は次のようになる。
E
(
u
(
c
)
)
=
E
[
1
−
e
−
a
(
c
(
x
)
+
ϵ
)
]
,
{\displaystyle {\text{E}}(u(c))={\text{E}}[1-e^{-a(c(x)+\epsilon )}],}
ここで E は期待値 演算子である。雑音が正規分布 に従う場合、
ε
∼
N
(
μ
,
σ
2
)
,
{\displaystyle \varepsilon \sim N(\mu ,\sigma ^{2}),}
次が成り立つ。
E
[
e
−
a
ε
]
=
e
−
a
μ
+
a
2
2
σ
2
.
{\displaystyle {\text{E}}[e^{-a\varepsilon }]=e^{-a\mu +{\frac {a^{2}}{2}}\sigma ^{2}}.}
したがって、
E
(
u
(
c
)
)
=
1
−
e
−
a
c
(
x
)
e
−
a
μ
+
a
2
2
σ
2
.
{\displaystyle {\text{E}}(u(c))=1-e^{-ac(x)}e^{-a\mu +{\frac {a^{2}}{2}}\sigma ^{2}}.}
複数資産ポートフォリオの例
最終的な富 W の期待指数型効用
E
[
−
e
−
a
W
]
{\displaystyle {\text{E}}[-e^{-aW}]}
を最大化するポートフォリオ配分問題を考える。
W
=
x
′
r
+
(
W
0
−
x
′
k
)
⋅
r
f
{\displaystyle W=x'r+(W_{0}-x'k)\cdot r_{f}}
ここで W 0 は初期富、x は n 個のリスク資産に配分する数量ベクトル、r は n 資産の確率ベクトル (英語版 ) 収益率、k は 1 のベクトル(したがって
W
0
−
x
′
k
{\displaystyle W_{0}-x'k}
は無リスク資産への投資額)、r f は既知の無リスク資産の利子率である。r が多変量正規分布 に従うと仮定すると、期待効用は
E
[
−
e
−
a
W
]
=
−
e
−
a
[
(
W
0
−
x
′
k
)
r
f
]
e
−
a
⋅
x
′
μ
+
a
2
2
σ
2
,
{\displaystyle {\text{E}}[-e^{-aW}]=-e^{-a[(W_{0}-x'k)r_{f}]}e^{-a\cdot x'\mu +{\frac {a^{2}}{2}}\sigma ^{2}},}
と書ける。ここで
μ
{\displaystyle \mu }
は r の平均ベクトル、
σ
2
{\displaystyle \sigma ^{2}}
は最終的な富の分散である。これを最大化することは、次を最大化することに等しい。
x
′
(
μ
−
r
f
⋅
k
)
−
a
2
⋅
x
′
V
x
,
{\displaystyle x'(\mu -r_{f}\cdot k)-{\frac {a}{2}}\cdot x'Vx,}
ただし、V は r の共分散行列 である。この解は
x
∗
=
1
a
V
−
1
(
μ
−
r
f
⋅
k
)
.
{\displaystyle x^{*}={\frac {1}{a}}V^{-1}(\mu -r_{f}\cdot k).}
となる。これにより、(1) リスク資産の最適保有量 x * が初期富 W 0 に依存しない(非現実的な性質)、(2) リスク回避パラメータ a が大きいほど各リスク資産の保有量が小さくなる(直感的に妥当な性質)、ことが示される。このポートフォリオの例は、指数型効用関数の二つの主要な特徴 ― 正規分布の下での扱いやすさと、一定絶対的リスク回避ゆえの非現実性 ― を示している。
関連項目
出典
^ Arrow, K. J. (1965). The Theory of Risk Aversion . Helsinki: Yrjo Jahnssonin Saatio Reprinted in: Essays in the Theory of Risk Bearing , Markham Publ. Co., Chicago, 1971, 90–109.
^ Pratt, J. W. (1964). “Risk Aversion in the Small and in the Large”. Econometrica 32 (1–2): 122–136. doi :10.2307/1913738 . JSTOR 1913738 .
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